フェイルセーフ・フールプルーフとは? 具体例や違い、必要な理由など解説

フェイルセーフという機能を知っていますか。
私たちが普段使っている機器やサービスに組み込まれ、予期せぬエラーから重大事故が発生するのを防ぐ設計のことです。
同じくユーザーの安全を守る「フールプルーフ」もありますが、両者には設計目的に違いがあります。
記事ではフェイルセーフの意味やフールプルーフとの違いを解説。
併せて医療、建築などにおけるフェイルセーフの活用例も紹介します。

フェイルセーフとは?

フェイルセーフ(fail safe)とは、システムや装置が異常を起こしたときに安全に停止できるように設計された機能のこと。
システムに障害や故障が発生しても安全な状態を維持し、人命へのリスクを最小限に抑えるのが狙いです。
フェイルセーフの機能は、人命の安全性に関わる装置・システムや、建築など高い信頼性が求められる産業分野で特に重要視されています。

フェイルセーフの具体例

フェイルセーフ機能が備わっている装置やシステムを紹介します。
私たちの身近にあるものにもフェイルセーフが応用されています。

電子レンジ

日常でよく使う電子レンジにも、加熱しすぎや火災を防ぐフェイルセーフ機能が備わっています。
例えばレンジ内の温度が一定を超えた際には電源が切れたり、ドアが開いたまま運転したりしないようにするための機能が代表的です。

ストーブ

石油ストーブやファンヒーターには、転倒すると自動的に消火する機能が備わっています。
このフェイルセーフ機能によって、地震が起こったり、誤ってストーブを倒したりしても火災リスクを最小限に抑えることが可能です。

エレベーター

エレベーターには一定速度以上で急降下した際に、エレベーターを停止させて落下を防ぐ非常止め装置が付いています。
また新型のエレベーターには、地震発生時に自動で最寄りの階に停止して扉が開く安全装置が付いていることが多いです。

自動車

自動車の油圧ブレーキシステムにはフェイルセーフ機能が設計されています。
ブレーキシステムの主系統に異常をきたした際でもブレーキをかけられるように、副系統が作動する仕組みです。
これにより人命リスクを最小限に抑えます。

電車やバスの扉

電車やバスの扉にもフェイルセーフ機能が組み込まれています。
列車やバスのドアが閉まるときに、乗降口の近くに人がいたらドアが閉まらないようにする機能です。
この機能により、ドアに人が挟まれた状態で電車が出発することはありません。

信号機

信号機が故障したり地震で停電したりすると、赤信号や黄信号の点滅に切り替わるようになっています。
このフェイルセーフ機能はドライバーや歩行者に注意を喚起し、自動車同士の事故や人身事故を未然に防ぐことが狙いです。

医療施設

多くの人命を扱う病院建築にもフェイルセーフが備わっていることが多いです。
例えば地震などの自然災害が発生して病院が停電になっても、病院の自家発電によって電気が供給されます。
これによって手術を継続できるほか、入院患者が人工呼吸器や人工心肺装置などの医療機器を使い続けることが可能です。

天井の建築技術

株式会社大林組は、一部の天井に「フェイルセーフシーリング」を取り入れています。
フェイルセーフシーリングとは既存天井の下面にフラットバーとネット、またはネット状の細いロープを設置する建築方法です。
この建築技術によって地震発生時に建築物の天井材の落下を一時的に食い止め、人々が避難する時間を確保できます。

産業用ロボット

産業用ロボットにもフェイルセーフ機能が備わっており、操作ミスや誤動作による重大な事故を防ぎます。
例として人間がロボットの動作範囲内に侵入したとき、ロボットが自動で停止するエリアセンサーなど。
この機能によりロボットによる事故を防ぎ、労働者の安全を守っています。

フールプルーフとは? フェイルセーフとの違いも

フェイルセーフと間違えやすい概念として、「フールプルーフ」があります。
フールプルーフ設計とフェイルセーフの意味の違いを以下で確認しましょう。

フールプルーフとは

「フールプルーフ(fool proof)」とは、ユーザーがシステムや商品を誤った方法で使い、事故や故障が発生するのを防ぐための設計。
物理的もしくはソフト面から、ユーザーが起こしやすいミスを防止することで個人や職場の安全を守りシステム故障を防ぎます。
フールプルーフは、ユーザーインターフェースやデザインを設計する上で大事な観点だとされています。

フールプルーフとフェイルセーフの違い

フールプルーフとは、ユーザーが機器を誤った方法で使えないようにするための設計です。
一方フェイルセーフはシステムや機器が誤作動を起こした際に備えた機能のこと。
つまり両者の違いは、フールプルーフが操作ミス、フェイルセーフが事故の発生を未然に防ぐ点です。
フールプルーフとフェイルセーフを両方とも考慮することで、より安全でミスの少ない環境を作ることができます。

フールプルーフの具体例

ここからはフールプルーフの具体例を取り上げます。
フェイルセーフとの違いも考えつつ、例をチェックしましょう。

シートベルトの警告音

自動車を運転するときはシートベルトの着用が義務です。
しかし、シートベルトを締めるのをつい忘れてしまうこともあるでしょう。
車種によってはシートベルト未着用の場合に警告音が鳴る機能が採用されていて、ドライバーにシートベルト着用を促します。

工場の作業現場

人為的ミスによって事故が起こりやすい製造業の現場には、フールプルーフを採用した装置や仕組みが多くあります。
例えば手を挟まれると事故につながる機械は、両手で機器を操作しないと動作しない設計になっていることも。
また加工物を投入する口の中に、手を入れられないようにガードが付いている機械もあります。

医療現場

ミスによって患者の命を奪いかねない医療現場でもフールプルーフ設計が用いられています。
例えば輸液ラインと栄養ラインの誤接続を防ぐため、相互接合できないサイズ規格のコネクタが導入されています。
また医療用ガスを供給する3つの配管はそれぞれピン数と接続部の形状が違い、誤ったガスの接続を防ぐ設計も。

フェイルセーフが必要な理由・メリット

フェイルセーフが採用されている身近な例を見てきました。
ここからはフェイルセーフを取り入れるメリットを解説します。

安全性を高めるため

フェイルセーフ設計の最も大きなメリットは、事故を防止し被害を最小化できる点。
装置やシステムにエラーが発生した際に、段階的に安全な状態に移すことで重大事故を防止します。
自然災害や予期せぬ機器の故障が起こっても、フェイルセーフ機能によって人的被害や損害を最小限に抑えられるのがポイントです。

マーケティングのため

商品やサービスにフェイルセーフ設計が組み込まれていると、顧客に安心感や信頼性を与え、購入を促進することも。
特に医療機器や製造業など安全に関わる分野では、フェイルセーフ機能が備わっていることがアピール材料になります。
ただし過剰にアピールすると顧客を不安にさせるため、適切な情報提供が必要です。

メンテナンスコスト削減

フェイルセーフ機能付きの装置やシステムを採用した場合、長期的な観点から考えるとメンテナンスコストや修理コストを抑えられるでしょう。
何らかのエラーが発生した際にフェイルセーフ設計でシステムが安全に停止できるため、機器自体の故障を防げます。
そのため部品交換コストや修理費用の削減が見込めるでしょう。

フェイルセーフのデメリット

安全性において重要な役割を果たすフェイルセーフ機能ですが、デメリットもあります。
デメリットも把握して、システムや機器を使用しましょう。

作業効率が低下する場合がある

フェイルセーフによって、業務効率が低下する場合も。
例えば二つのボタンを押さないと機械を動かせないフェイルセーフ機能を備えた設備は、一つのボタンで動く設備より作業効率が悪いです。
またあるエラーを防ぐためにシステムで制約を設けると、ユーザーがシステムを柔軟に使えなくなり効率性が低下する恐れも。

安全設計への過信が事故を生むことも

フェイルセーフ機能を採用していることで、ユーザーが機器やシステムの安全性を過度に信頼して注意力が落ちる恐れがあります。
フェイルセーフはエラーや誤作動を必ず防ぐものではありません。
重大事故につながらないように、安全な作業手順やトレーニングを欠かさないようにしましょう。

フェイルセーフを設計する際の注意点

フェイルセーフを設計、導入するときの注意点を紹介します。
フェイルセーフの機能を有効活用できるように以下のポイントを確認しましょう。

事故が絶対に防止できるわけではない

フェイルセーフ機能があっても、電源喪失やトラブルによって必要なときに動作しない可能性もあります。
フェイルセーフがユーザーをリスクから100%守れるわけではないことを念頭に置き、二重三重の安全対策を講じるのがよいでしょう。

フェイルセーフの必要性を従業員に周知する

フェイルセーフ機能によって機械が危険を察知した場合、動作が止まるため作業効率の低下が起こり得ます。
ユーザーが作業効率を上げるためにフェイルセーフを解除すると、必要なときにフェイルセーフが機能せず事故につながる恐れも。
そのため、従業員にフェイルセーフの重要性を周知させることが大事です。

まとめ

記事ではフェイルセーフとフールプルーフの違いや具体例を紹介。
さらにフェイルセーフのメリット、デメリットも解説しました。
人の命にかかわる医療機器や建築物、製造現場などではこうした安全性を重視する設計が多く採用されています。
導入しても安全性が100%確保されるわけではないため、従業員やユーザーが安全意識を高く持ち続けることが重要です。

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