小売業界で頻繁に使われる、上代、下代、掛け率といった専門用語。
間違った用語の理解はトラブルの要因になるケースもあり、業界の規定や慣習を踏まえ適切な使い方を理解するのが重要です。
今回は、定価や参考上代など混同しがちな意味の違い、「上代に消費税は含まれるか」など細かな疑問を含め、上代や下代について解説します。
用語とあわせて、下代交渉のコツなど、仕入れ価格を有利にする実例も参考にしてください。
上代とは?
上代は小売業界でよく使われる基本的な用語です。
一緒に使用されることが多い下代との違いを知るためにも、まずは上代の意味を理解しましょう。
上代の意味
上代とは、製造メーカーや卸問屋が指定する商品の販売価格のことで、「上代価格」とも呼ばれます。
上代は小売店が自由に設定できる価格ではありません。
ユーザーが店頭で目にする価格のため、商品の市場における位置づけや相場の目安価格ともいえます。
上代に消費税は含まれる?
上代は基本的に消費税が含まれていませんが、税込み価格として消費税を含める場合もあります。
この点は、各企業や業界の規定によって異なるため、上代が消費税込みか税抜きかは、事前に確認するようにしましょう。
上代に関する独占禁止法の規定
上代は小売市場の公正な競争や、相場の健全性を保つため『独占禁止法第2条9項4項』が規定されています。
そのため、メーカーや卸問屋が小売店に対し上代を強制することは原則的に禁止です。
しかし、法的に小売店は自由に価格設定できる一方で、上代を守らない場合には「仕入れ先から不利な扱いを受ける可能性がある」のが現状です。
下代とは?
下代とは、小売店がメーカーや卸から商品を仕入れる価格を指します。
この仕入れ価格は「卸価格」や「卸値」とも呼ばれ、一般消費者が知ることはありません。
また下代は仕入れ先と小売店間の取引価格で、各企業の規定や取引条件に基づいて設定されます。
つまり、小売店は下代(卸価格、卸値)で商品を仕入れ、上代価格で販売することによって利益を得るという原則的な仕組みです。
下代を左右するのは掛け率
小売店が利益を増やすためには、下代価格をできるだけ低く抑えるのが理想です。
この仕入れ価格を決める際に重要な要素が「掛け率」です。
掛け率とは
掛け率とは商品の仕入れ価格と上代の比率であり、小売店が商品を仕入れる際の卸値の割合を指します。
また、掛け率は業界や商品によって異なるのが一般的です。
仕入れ価格は定価の何%かという指標であり、「40%、50%」、「4掛け、5掛け」という使われ方をします。
小売店の規定や方針により掛け率が決まり、それに基づいて小売店の仕入れ価格が計算されます。
掛け率から下代を計算する方法
下代の計算方法は、上代に掛け率を掛けて求められます。
例えば、上代が8,000円の商品で掛け率が60%の場合、下代は次のように計算できます。
・上代(8,000円)× 掛け率(60%)= 下代(4,800円)
この場合、小売店は商品を4,800円で仕入れることができる計算になります。
ベースの計算方法を理解していれば、下代と掛率から上代を求めたり、上代と下代から掛け率を知ることも簡単です。
掛け率の相場
掛け率の相場は各業界によって異なりますが、一般的には40%から70%の範囲で設定されるケースが多いです。
例えば、アパレル業界であれば40%~60%、飲食業界の場合は約40~50%ぐらいの幅で掛け率相場が設定されています。
混同しがちな専門用語とその違い
小売業界には、似たような用語が多く存在します。
特に「定価」「参考上代」「メーカー希望小売価格」「オープン価格」は混同しやすいため、それぞれの意味と違いを明確に理解しておきましょう。
定価
定価とは法律により規定された販売価格の意味で、勝手に値下げしたり値上げしたりできない価格のこと。
上代と定価の違いは、上代がメーカーや卸業者により設定される販売価格であるのに対し、定価は法律に基づく拘束力を持つ点です。
定価の代表例としては、「たばこ」「新刊書籍」などが挙げられます。
参考上代
参考上代とはメーカー側が提示する参考価格のことで、市場相場を反映した価格設定の目安ともいえます。
参考上代の「参考」という言葉が示す通り、販売価格の変動を許容しているため、小売業者は販売価格を自由に設定可能です。
上代とは異なり、販売価格に拘束力のない点が特徴といえるでしょう。
メーカー希望小売価格
メーカー希望小売価格とは、メーカーが小売店に対して希望する販売価格を指します。
しかし、最終的な価格決定権は小売店にあるため、小売店はこの希望価格に従う義務はありません。
参考上代とほぼ同義ですが、特に海外取引をする際によく用いられる用語です。
オープン価格
オープン価格とは、メーカーが上代を設定せず、小売店が販売価格を自由に決めることができる価格です。
主に家電製品などに用いられており、市場の状況や競合他社の価格動向に応じて柔軟に価格を変更できる点が特徴です。
仕入れに関する専門用語も紹介
ここまで、商品を仕入れる際に使う価格に関する用語を解説してきました。
他にも仕入れの際によく使われる用語についても理解しておきましょう。
口座を開く・作る
こちらは銀行口座の開設ではなく、仕入れや販売を行うために、取引先企業に自社を登録してもらうプロセスを「口座を開く・作る」といいます。
特定メーカーや卸売業者から仕入れる際に必要な、利用登録や信用審査、取引条件の合意などを含む手続きを指す場合も。
口座を開いてもらった後に仕入れ取引を始めることができます。
掛け
掛けとは、商品を先に受け取り、後で代金を支払う取引方法です。
特に「掛け買い」とも呼ばれ、取引先との合意に基づいて月末などにまとめて支払う方法が一般的です。
掛けは「売掛」とも関連がある用語で、売掛は後日代金を回収する取引を指しています。
元払い、着払い
「元払い、着払い」とは、商品の仕入れの中で送料に関わる用語です。
元払いは、商品発送時にメーカーや卸元が送料を負担する意味で使われます。
一方着払いとは、商品到着時に小売店が送料を支払う形態を指すので、混ざらないように注意しましょう。
掛け率や下代交渉のコツ
掛け率や下代交渉は、小売業で利益を大きく左右する重要な要素です。
ここでは、交渉を有利に進めるためのポイントを紹介します。
交渉のタイミングを計る
タイミングを考えずに毎回交渉を行ってしまうと、取引先も疲弊して交渉自体が拒否される恐れもあります。
効果的なタイミングは、取引先が販売目標を達成したい月中や半期末、年度末などです。
また、大量の商品を仕入れる際や、取引先が新規顧客を獲得しようとする際もおすすめのタイミングになります。
どのタイミングも「相手にとってメリットのある時期に交渉を行う」のが共通点でありポイントです。
相見積もりを取る
相見積もりは、交渉場面における競争原理を利用し、有利な条件を引き出すための基本テクニックです。
取引先に対して、自社が市場価格を把握していることを示しつつ、交渉の透明性と公平性を保ちながら交渉を行えます。
複数の見積もりを提示すれば、取引先に対して「価格交渉の余地がある」と明示できるため、有利な仕入れ価格や掛け率を引き出せるでしょう。
購入額を増やすことを条件に、掛け率を下げてもらう
仕入れる商品量を増やすことを条件に、掛け率交渉を行う方法も有効な戦略です。
特に、メーカーや卸元が販売目標に苦戦しやすい時期は、大量に仕入れることで有利な掛け率にしてもらえる可能性も。
月中旬から20日頃、半期末や年度末などが狙い目です。
ただし、仕入れ過多による在庫リスクを避けるため、市場需要も正確に把握した上で仕入れる量を増やすようにしましょう。
まとめ
今回は小売業界における専門用語の意味や違い、掛け率の計算方法、業種別の掛率相場、参考上代などの関連用語も解説しました。
これら仕入れに関する用語は、メーカーや担当者とやり取りを行う際の基本的な内容で、正しく理解しておく必要があります。
特に下代価格などの仕入れ価格や掛け率は、原価に直接影響する重要な価格のため、収益向上のために常に意識しておくべきといえるでしょう。