先入れ先出し法は、在庫管理の基本的な方法として広く知られています。
この方法の基礎をしっかり理解し、適切に活用することで、在高計算を含む効率的な在庫管理が可能です。
コスト削減はもちろん、商品の品質維持にも寄与するのが先入れ先出し法の特徴。
本記事では、先入れ先出し法の基本から、運用する上でのメリットデメリット、実践的な活用アイデア等も解説します。
先入れ先出し法とは?
先入れ先出し法とは、在庫管理の基礎的なやり方・アイデアで「最初に入庫した商品を最初に出庫する」という原則に基づきます。
FIFO(First In First Out)とも呼ばれており、商品の仕入れ単価に変動がある場合に特に効果的です。
FIFOは「期末在庫は最近仕入れた商品から構成される」と仮定をしていて、一番古い在庫を基準に原価計算に用います。
先入れ先出し法のメリットとデメリット
先入れ先出し法(FIFO)は、在庫管理における基本的なやり方でメリットが多い反面、運用する上でのデメリットも存在します。
先入れ先出し法のメリット
先入れ先出し法の利点は「商品の品質維持」と「在庫コスト低減」です。
品質維持のわかりやすい例として、例えば「賞味期限のある商品」などが挙げられます。
また古い在庫を先に出荷することで、廃棄リスクを減らしながら品質維持もでき、在庫コストも削減できるでしょう。
在高計算や売上原価を計算する際も、物流現場の出荷の流れと連動しやすいため、実態との乖離が起きにくい点もメリットです。
先入れ先出し法のデメリット
先入れ先出し法のデメリットは「在庫管理の複雑化」が挙げられます。
わかりやすい例として、牛乳パックをスーパーの店舗スタッフが陳列するケースです。
先入れ先出し法で牛乳を陳列する際、賞味期限が近い牛乳を手前に、新しいものは奥に置く必要があり、手前から並べるだけより手間は増えます。
商品の種類や量が増えるほど、作業負担は増加するため、システム導入などの管理コストも増える可能性があるでしょう。
先入れ先出し法の活用例
ここでは、先入れ先出し法の活用アイデアを紹介します。
わかりやすい例として、賞味期限が重要な食品や医薬品業界が挙げられます。
食品メーカーは古い在庫から順に出荷し、品質維持と廃棄リスクを低減しており、医薬品も同様の理由で先入れ先出し法を採用。
自動車製造の部品管理もわかりやすい例で、安全性や耐久性が求められる部品管理に、先入れ先出し法を活用しています。
部品劣化や性能低下リスクを最小限に抑えるアイデアといえるでしょう。
先入れ先出し法以外の評価方法
在庫計算に使用する原価計算方法には、先入れ先出し法以外にも、以下のような複数のやり方や計算方法があります。
移動平均法
移動平均法とは、「新たに商品を仕入れる度に、全在庫の平均単価を計算し直す」というわかりやすいアイデアです。
仕入れ価格が変動する商品に適していて、市場価格の変動に柔軟に対応できる利点があります。
ただし、新たな在庫が追加される度に計算も必要で、管理が複雑になる点はデメリットです。
総平均法
総平均法とは、特定期間の仕入れと期首の棚卸を合計し、その総数で割って平均単価を出す原価計算のやり方です。
在高計算において長期的な価格変動を平準化することができ、安定した在庫評価を行うことができます。
しかし、短期的な市場変動には対応しにくい点が問題点といえるでしょう。
売価還元法
売価還元法とは、期末在庫の売価から原価率を差し引いた求め方をする原価計算方法です。
市場価格の変動が激しい商品に適したやり方で、売価の変動に応じた在庫評価ができます。
しかし、運用するためには正確な原価率の設定が必要なので、注意が必要です。
個別法
個別法とは商品を個別に在庫管理するやり方で、在高計算において各商品の詳細な原価計算ができるアイデアです。
シンプルに商品それぞれの原価を見るので、商品単体としてはわかりやすい計算方法です。
宝石などの高単価商品や個別特性が強い商品に適しており、正確な売上原価や在高計算ができる点はメリット。
しかし、商品管理に大きな手間とコストがかかる点はデメリットです。
最終仕入原価法
最終仕入原価法は、最後に仕入れた商品の単価を期末の評価単価としてみる計算方法。
市場価格の最新の動向に対応した在高計算を行いたい場合などに有効なやり方です。
「今の基準」をベースにした売上原価を把握しやすい一方で、在庫が長期にわたる場合は不適切な評価となるリスクがあります。
先入れ先出し法と移動平均法の違い
先入れ先出し法は「最初に仕入れた商品を最初に払い出す」という、わかりやすい原則に基づいた計算方法です。
移動平均法では「仕入れる都度、全在庫の平均単価を計算し直す」という特徴があります。
先入れ先出し法は現実の物流に近い評価が可能で、移動平均法は市場価格の変動が起きても柔軟に対応できる点に違いがあります。
商品有高帳とは?
企業が管理する在庫把握に不可欠な「商品有高帳」について、その基本的な考え方や概要と、使用する目的について解説します。
商品有高帳の概要
商品有高帳は、企業が仕入れた商品の入庫から出庫までの流れを記録する帳簿です。
在庫の数量、単価、それによる総額の在高計算を通じて商品の流動性を管理するために使用します。
日々の取引を正確に記録することで、在庫管理の効率化はもちろん、今後の経営方針を決める際にも役立つでしょう。
商品有高帳の目的
商品有高帳の主な目的は、リアルタイムでの在庫状況を把握することや、会社全体の在庫有高の確認をすることなどです。
商品在高を正確に把握できると、売上原価も実態に合った計算ができます。
これにより、わかりやすい方法で欠品や過剰在庫の防止や適切な損益計算が行えるでしょう。
在高計算
「在高」とは、現在保有している在庫の総価値を指し、商品有高帳における在高計算において重要な要素です。
計算式は以下のようになります。
数量 × 単価 = 商品有高
在高計算の求め方は、在庫の数量に単価を乗じて行われ、単価は先入先出法や移動平均法などの評価基準によって異なります。
この計算を通じて在庫の金額評価が決定され、商品有高帳に記録される流れです。
先入れ先出し法と移動平均法による計算方法の例
先出し法と移動平均法は残高の求め方にどのような違いがあるのでしょうか。
トレーニングとして少し計算をしてみましょう。
条件
以下の条件を用意したので、それぞれ先入れ先出し法と移動平均法を使って商品の仕入れと販売を行った場合を想定してみます。
期首時点の商品Aの残高は1,000円(=10円×100個)
4月に商品Aを単価15円で400個仕入れた。
5月に商品Aを400個売り上げた。
6月に商品Aを単価15円で100個仕入れた。
先入れ先出し法
先入れ先出し法は、先に仕入れた古い商品から順に払い出し金額の計算を行い、残高に反映させる求め方で計算します。
受け入れ | 払出し | 残高 | |
期首 | 1,000円 (=10円×100個) | ||
4月 | 6,000円 (=15円×400個) | 7,000円 (=10円×10個+15円×400個 | |
5月 | 5,500円 (=10円×100個+15円×300個) | 1,500円 (=15円×100個) | |
6月 | 1,500円 (=15円×100個) | 3,000円 (=15円×100個+15円×100個) |
移動平均法
移動平均法の求め方は、新たに棚卸資産を受け入れるたびに「加重平均」を計算を行い、原価計算をする必要があります。
受け入れ | 払出し | 残高 | 平均原価の算出 | |
期首 | 1,000円 (=10円×100個) | |||
4月 | 6,000円 (=15円×400個) | 7,000円 (=14円×500個) | 14円 =7,000円÷(100個+400個) | |
5月 | 5,600円 (=14円×400個) | 1,400円 (=14円×100個) | ||
6月 | 1,500円 (=15円×100個) | 2,900円 (=14.5円×200個) | 14.5円 =2,900円÷(100個+100個) |
売上原価の求め方
売上原価とは、売れた商品の製造や仕入れに関連する原価のことで、原則として販売前商品の原価は含まれません。
原価計算は、販売された商品で行い財務報告の費用部分に反映されます。
売上原価は次のような求め方で計算します。
『売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 – 期末商品在庫高』
飲食業では材料費にかかった費用を売上原価としますが、サービス業では外注費のみを売上原価に設定しています。
このように、売上原価の費用項目をどこに該当させるかは業種によって様々で異なっている点も留意しましょう。
まとめ
本記事では、在庫管理の基本的なアイデアである先入れ先出し法や、移動平均法を掘り下げました。
先入れ先出し法は、特に賞味期限のある商品の管理に適しており、在庫の品質維持とコスト削減に寄与しますが、在庫管理の複雑化がデメリットです。
また、移動平均法は市場価格の変動に柔軟に対応できるものの、計算の複雑さが問題でした。
それぞれの仕組みを理解し適切に運用することで、ビジネス効率化や経営方針の決定に活用してみましょう。