ネットショップの運営を成功させるために重要なのが在庫管理。
在庫量を常に適切に保って欠品による機会損失を防ぐためには、安全在庫の確保は必須です。
今回は安全在庫に関する基本的な考え方や計算式、安全係数や適正在庫との違いなどについて解説していきます。
ぜひこの記事を参考にして、今後のネットショップの運営に活かしてください。
安全在庫とは?
安全在庫とは在庫管理を行う上で、余剰在庫と欠品を防ぐための最低限の在庫量のことを指します。
不確定な事態にも柔軟に対応できるよう、必要な在庫量に少しプラスして保管しておくのが安全在庫です。
ECサイトの商品は、季節や流行、特売などによって需要が常に変動し、また月初めや月末にも変動していきます。
そのような需要の変化に対してもスムーズに対応するために安全在庫があるのです。
安全在庫と適正在庫の違い
安全在庫と適正在庫は一見似た概念ですが、明確な違いがあります。
適正在庫とは、ショップ側にとって過不足の無い適切な在庫数のこと。
安全在庫は「欠品防止」が目的ですが、適正在庫は「企業利益の最大化」が目的と言う点が両者の大きな違いです。
安全在庫には過剰在庫を生みやすいといったデメリットがあるので、適正在庫も考慮して在庫管理をすることが重要でしょう。
なぜ安全在庫を設定するのか?
そもそも、なぜ安全在庫を設定するのでしょうか。
商機の獲得や過剰在庫の防止など、その理由は多岐にわたります。
キャッシュフローを改善するため
なぜ安全在庫を設定するのかといえば、第一にキャッシュフローを見直すためです。
在庫は販売できて初めて売上に繋がるため、無駄な在庫が増えるとキャッシュフローが滞ることに。
しかし、安全在庫を活用すれば劣化による商品の廃棄や在庫管理の労力も減らすことができ、結果的に企業が得られる利益は上がります。
商機を逃さないため
商機を逃さないためにも、安全在庫の設定は必要です。
欠品は単に売上を下げるだけでなく、常連客を競合に奪われるといった事態にも繋がります。
そうなると、一度離れた客を再びこちらへ呼び寄せるのは難しくなるでしょう。
また欠品が生じれば、企業への信頼も徐々に薄れていく可能性もあります。
厳しい市場競争の中、少しでも優位に立つために安全在庫は不可欠なのです。
余剰在庫を減らすため
安全在庫を設定することは、商品を保管している倉庫内の無駄を省くことにも繋がります。
欠品のリスクを考え過ぎて余剰在庫の状態になると、倉庫の保管スペースや保管費も無駄になってしまいます。
また同時に倉庫スタッフの作業効率も下がってしまうため、倉庫作業でのミスが起きてしまうかもしれません。
そのような余剰在庫におけるリスクを事前に防ぐためにも、安全在庫の設定は重要です。
安全在庫量の計算方法
ここでは、安全在庫量の計算式について解説します。
平方根や標準偏差など少し難しい数学の概念が登場しますが、電卓やエクセルがあれば簡単に計算できるはずです。
その1.安全在庫量の計算式をチェック
安全在庫量は、以下のように平方根を使う計算式で簡単に求めることができます。
計算式を完成させるために、まずは安全係数、使用量の標準偏差、リードタイム、発注間隔の平方根を算出しましょう。
それぞれの計算方法は次の見出しで説明します。
・安全在庫量=「安全係数」×「使用量の標準偏差」×「√(「発注リードタイム」+「発注間隔」)」
その2.安全係数を計算
計算式がチェックできたら、欠品許容率に対する安全係数の値を計算します。
欠品許容率とは、欠品の発生頻度をどれくらいであれば許容できるかを表す値です。
仮に欠品許容率が5%であれば、100回中5回は欠品していても許容できる範囲ということになります。
以下では欠品許容率に対する、安全係数を示しています。
【欠品許容率→安全係数】
・0.1%→3.10
・1%→2.33
・2%→2.06
・5%→1.65
・10%→1.29
・20%→0.85
・30%→0.53
また安全係数をエクセルで求める場合には、「安全係数=NORMSINV(1-欠品許容率)」の計算式で算出できます。
その3.使用量の標準偏差を算出
安全在庫を求めるには需要の変動を見極めるのが重要ですが、正確に需要を把握することは難しいです。
そこで、役立つのが在庫使用量の標準偏差です。
標準偏差とは平均からのズレを表す数値で、平均からどれだけ離れているかを把握するための目安となります。
在庫使用量の標準偏差を計算式にするのは難しいため、エクセルの関数を使って計算するのがおすすめです。
エクセル表のA1~A10を範囲にして使用量の標準偏差を求めたい場合
・A1~A10の標準偏差 =STDEV.S(A1:A10)
その4.発注リードタイムを算出
発注リードタイムとは仕入れ先から在庫を発注した後、実際に納品されるまでの時間のこと。
例えば4月1日に商品を発注して、4月5日に商品を受け取ったとすると、この場合の発注リードタイムは4日となります。
発注リードタイムは、購買リードタイムや調達リードタイムと表記されることもありますが同じ意味です。
その5.発注間隔を算出
発注間隔とは次の発注までの日数のこと。
例えば毎週1回のペースで発注を行う場合、発注間隔は7日となります。
また発注間隔が決まっていない場合は、0として算出してください。
上記の発注リードタイムとあわせた、√(「発注リードタイム」+「発注間隔」の部分は、平方根の代わりにエクセルの関数SQRTでも計算できます。
安全在庫量の計算例
次は安全在庫量の計算例についての解説です。
以下の条件の場合の、安全在庫量を求める計算式と答えを紹介します。
【条件】
・一般的な欠品許容率=5%(安全係数=1.65)
・標準値(平均値)=5個
・発注リードタイム=6日間
・発注間隔=10日
・安全在庫=1.65×10×√(10+6)=66個
安全係数が1.65(欠品許容量5%)、標準偏差が5、発注リードタイムが6日、発注10日である場合の安全在庫量は以下の通りです。
・安全在庫=1.65×5×√(6+10)=33
常に安全在庫として33個程度は確保をしておけば、過剰在庫または欠品を防げることが分かりました。
安全在庫を設定する際の注意点
安全在庫は設定する際にいくつか注意点があります。
設定してから後悔しないために、前もって知っておきましょう。
安全在庫はあくまで目安
ここまで安全在庫の設定について説明してきましたが、安全在庫を設定したからといって欠品を0にすることはできません。
安全在庫は欠品を防ぐために必要な数値ですが、「確率」の問題となるため、あくまでも目安として考えましょう。
例えば、欠品許容率が1%だった場合でも、100回に1回は欠品が生じるのです。
安全在庫の数値は絶対ではないので、捉われ過ぎないように気をつけましょう。
季節商品にはあまり参考にならない
安全在庫は季節に左右される商品に対してはあまり参考になりません。
季節性がある商品や需要の増減が激しい商品を扱う場合は、適切な標準偏差が算出できないことも。
安全在庫は年間を通して安定した販売量が確保されている商品に対してのみ、適用できます。
すべての商品に適用されるわけではないということを理解しておきましょう。
リードタイムが変動した場合再計算が必要
安全在庫の計算式にはリードタイムが用いられますが、リードタイムは需要や時期によって変動します。
災害や事件、事故を除き、国内での輸送においてはリードタイムに数か月単位での大幅な誤差が出ることは少ないです。
しかし、商品がテレビで取り上げられ、多くの人の目に止まるようになると、需要が高まってリードタイムの遅延につながります。
このようにリードタイムに影響を与える場合は、安全在庫も再計算を行うといった安全在庫の見直しの必要性が出てきます。
まとめ
今回は、なぜ安全在庫が必要なのかや計算式について詳しく解説しました。
安全在庫は、欠品を防ぐために保持すべき在庫量で、常に適正な在庫を決めるための画期的な方法でもあります。
しかし、あくまで目安であることや、安全在庫が参考にならないケースも念頭に置いておくことが重要です。
エクセルでの計算方法や適正在庫との違いも理解しつつ、最適な運営体制を見つけてみてください。